デザインの盗用があったとして訴訟沙汰になっている東京五輪エンブレム問題。
当初は、デザインを手がけた佐野研二郎 (以下、佐野)、審査委員、大会組織委員会揃って、デザインの盗用はなく、決定したデザインを取り下げる予定もないと、疑惑について毅然とした態度を取っていた。
しかし、本日 (9/1) 、会見が開かれ、これまでの方針から一転、デザインを取り下げると決定したと述べた。
東京五輪エンブレム問題で組織委員会が会見 (THE PAGE)
(https://www.youtube.com/watch?v=Xd2bmMrk9ss)
会見の内容を、超意訳すると、
「デザイン的には、完全なオリジナルで問題ないが、ここまで騒動が大きくなり、また、一般国民の理解を得られなかったことを考えると、使用を中止せざるを得ない。」
という感じ。
他には、専門家の中では理解を得られているようなことも言っていた。
ならば、ベルギーのデザイナーオリビエ・ドビ (以下、ドビ) と劇場側から起こされている民事訴訟について、真向から受けて立ち、IOC と共にデザインの正当性を示すよう連携すればよかった。
なぜ、そうしなかったのか疑問がのこる。
【ちぐはぐな対応】
この問題について、大会組織委員会が取った対応は、いずれも遅かった。
今回の取り下げについても、ベルギーで民事訴訟を起こされる前ならいざしらず、提訴された後に取り下げてもなんの意味もない。
なぜなら、争点は、
「 (佐野デザインの) 東京五輪エンブレムに、シアター・デ・リエージュのロゴ (以下、劇場ロゴ) からの盗用があったのか?」
にあるからだ。
つまり、ここで佐野デザインを東京五輪エンブレムから取り下げても、佐野デザインに、盗用がなかったことを証明しなければ、先方は訴訟を取り下げない。
そのことについて、審査委員会や大会組織委員会では、
「 (佐野による東京五輪) 原案は、劇場ロゴとは別もの。オリジナルだと確信している」
「大会組織委員会は IOC とともに国際商標を調査し、問題がないと判断していた」
という認識であるから、訴訟まったなしだろう。
【訴訟の内容は?】
ベルギー側が、リエージュの民事裁判所に提訴した内容によれば、 IOC に次の2点を求めている。
「東京五輪エンブレムを使用しないこと」
「使用した公的機関もしくは企業があった場合、 1回あたり 5万ユーロを支払わせること」
この訴訟は、ベルギーで起こされているから、仮に IOC 側が敗訴しても、日本では効力を発揮しない。
しかし、それを背景にベルギー側が日本で訴訟を起こした場合はどうなるだろう?
東京五輪エンブレムの取り下げは発表されたが、エンブレム発表から取り下げの間に、佐野デザインを使用した広告を打っている企業はある。
もし、危惧する事態に陥った場合、それだけでも相当な金額の賠償金が支払われることになるだろう。考えるだけで恐ろしいことだ。
【 IOC と協調していてなぜわからなかったのか?】
大会組織委員会によれば、東京五輪エンブレムについては、IOC との協調の下で調査・デザインが決定されたとしている。
万全の体制を敷いて決定したにも関わらず、なぜ、このような問題になってしまったのか?
大会組織委員会によれば、ドビ デザインの劇場ロゴについては、商標登録がされていなかったため、調査してもわからなかったという見解だ。
こういったトラブルを回避するために、予め商標登録をしておくのが通例となっているのだから、それがないなら、類似デザインの調査で、劇場ロゴが見つからなくても責められない。
では、何が問題となっているのだろう?
【何の権利を侵害しているのか?】
前段のことから、商標登録上の問題はないということがわかった。
仮に、佐野デザインと ドビ デザインを比べたところで、2つが混同されることもないだろうから、このことからも、商標上の問題はなかったと言える。
では、著作権上はどうなのだろう?
同じくアルファベットをモチーフにしたシンプルなデザインであり、構図も似ている。しかし、配色や配置に違いがあり、全体の印象は似ていても、細部が違うともいえる。
ただ、サイズを揃えて比較した場合、活字デザイン上、または作図上の共通点がみられ、類似点があるとも言える。
この訴訟は、「違う箇所がああるから著作権を侵害していない」 のか 「細部は異なる箇所もあるが、デザイン的に著作権を侵害している」 のか、非常に難しい判断を強いられると思うし、この判決によっては、今後のデザインのあり方に、一石を投じることになるだろう。
【盗用の可能性はあるのか】
「佐野デザインが盗用である可能性はあるのか?」 という問題について、いつぞやの会見では、
佐野「ベルギーには行ったことがないし、劇場ロゴは知らない。」
と述べていたが、劇場ロゴについては、ドビ の Facebook や 画像共有SNS Pinterest (ピンタレスト) で公開されており、ベルギーに行かずとも観ることはできた。それに、当初は 「見ていない」 とコメントしていた Pinterest についても、アカウントを取得していたことも判明し、劇場ロゴを以前から知っていた可能性は否定できなくなってしまった。
Pinterest の一件は、アカウント取得が判明した直後に削除していることから、 瓜田に履を納れるような結果になってしまい、疑惑に拍車をかけることになった。
また、最近では、五輪エンブレム展示例の画像について、個人サイトからの無断使用の疑惑があがっていた。
この件は、「コピーライト」の透かしを削除しての商利用であり、道義に反する行為と非難を受けいたが、審査委員会の調査の結果、佐野が盗用を認めるに至り (※1.) 、更に五輪エンブレムの盗用疑惑を深めた。
これらのことを踏まえ、8月5日の会見で、佐野がコメントした内容を振り返ってみる。
五輪エンブレム問題 制作者の佐野研二郎氏が会見 (THE PAGE)
(https://www.youtube.com/watch?v=ai2dzb5Ho_Y)
なるほど、東京五輪エンブレムについての解説で、デザインに対するアプローチも違うことや、オリジナリティに自信があるのは分かったし、大会組織委員会のオーダーに沿ったデザインであることが理解できた。
しかし、それは、あくまでも能書きでしかなく、やはり、東京五輪エンブレム単体として考えたら、文字デザイン、作図面でのアプローチは近いんじゃないかと感じた。
そして、動画の 40分45秒 くらいの質疑に対して、こう回答している。
「私は、アートディレクター/デザイナーとして、モノをパクるっていうことを、一切したことがありません。」
・・・無断転用してたんだよなぁ。
しかも、個人サイト掲載の画像から、コピーライトを削って無断使用とか、もう、最悪だ。
この無断使用について、使用中止発表の会見では、佐野曰く、
「デザイン業界では、内部資料として使用する場合、画像の無断使用はよくあることで、公式資料として公開される段階で、著作者本人と交渉する」
という言い分らしい。今回、内部資料が公式資料として出てしまったのは、不注意でした。とのこと。
何をいっても、コピーライトを削っている時点で、なんの説得力もない。
それに、社外のコンペで使う資料が内部資料っていうのは、無理がある。
まぁ、これがあったからこそ、使用中止を踏み切ったと考えれば、納得できる。
しかし、繰り返しになってしまうが、それを判断するには、なにもかもが遅すぎた。
それに、審査委員会および大会組織委員会は、方針がブレブレになっているが、自覚はないのだろうか?
盗用問題が発生した当初から、一般国民の間で疑惑が話題になっても、「オリジナリティがあり、なんの問題もない」 と一般国民の理解なんて屁とも思っていなかったクセに、ホント、しらじらしい。
その方針を翻したことによって、佐野デザインに盗用の可能性があったことを、暗に認めるかたちになってしまったのは、皮肉なことだと感じた。
※全て敬称略
※1. ^佐野氏 使用例で転用を認める (参照元) NHK WES WEB 2015年09月01日 14時20分
http://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20150901/4583271.html