別人みたいになってた那須川天心に驚愕。

タイトル:
Prime Video Boxing 15
WBC世界バンタム級挑戦者決定戦
開催場所:
4月11日(土) / 東京 / 両国国技館
公演公式:
敗戦後の闘いこそ真価を問われること、あるよね。
那須川選手の、井上拓真戦以上に負けられない戦いが、このエストラーダ戦だったと思います。
下馬評では、天心不利という声が多かった気がしますが、実際は、那須川選手、エストラーダ選手を完封したと言っても過言ではない、圧倒的な内容でした。
☆ 那須川 天心 (Nasukawa Tenshin)
戦績:9戦 8勝 1敗 3KO
年 齢:27歳
身 長:165cm
リーチ:176cm
スタイル:サウスポー
9R終了時 TKO
★ Juan Francisco Estrada (ファン・フランシスコ・エストラーダ)
戦績:50戦 45勝 5敗 28KO
WBA世界フライ級スーパー王座
WBO世界フライ級王座
WBC世界スーパーフライ級王座
WBA世界スーパーフライ級スーパー王座
リングマガジン世界スーパーフライ級王座
年 齢:35歳
身 長:163cm
リーチ:168cm
スタイル:オーソドックス
エストラーダ選手は、2階級制覇王者で、The Ring (リングマガジン認定王者) の認定も受けている類まれなボクサーです。
試合前の公開練習では、軽やかな動きを披露しており、この試合へ向けた調整が上手くいき、コンディションも良好であることを印象付けていました。
それを見てしまったら、「天心、厳しいかも」という意見になってしまうのも無理ないこと。なんと言っても、過去の名勝負の印象もまだ記憶に新しいですもんね。
しかし実際には、ピークを過ぎた感は否めいないもので、さらに、階級を上げたこともあり (体格的にバンタム級で戦うのは厳しいと言う意味) 、かつてのような、無数の手数と縦横無尽なフットワーク、さらに、無尽蔵のスタミナで、相手の心技体を圧倒し、心を折るような選手ではなくなっていました。
体格面の違いとして考慮しなければならない点があります。
それは、那須川選手が、キック・ボクシングだと 58kg 付近の階級を主戦場にしていた選手だということです。これはボクシングの階級にすると、~スーパー・フェザー級 (~58.97kg 以下)に相当します。つまり、バンタム級で戦うために、体重を 53.52kg まで絞ってきた選手です。
一方のエストラーダ選手は、フライ級 (~50.80kg) ~スーパー・フライ級 (~52.16kg) を主戦場にしていた選手で、バンタム級へ階級を上げてきた選手です。体格が全てではありませんが、バンタム級だと、増量必要があり、身長と体重のバランスが良い階級とは言いにくいと思います。
特に、体重が増えると、スタミナ消費も激しくなりますし、また、体が重くなれば、スピードも落ちます。なので、スーパー・フライ級の時の動きができるか?というと、難しいという考え方もできます。
試合序盤。
これまでの那須川選手は、「打たれずに打つ」を実践しており、パンチは避けるイメージでした。しかしこの試合では、避けるパンチ、ガードで受けるパンチを選んでいるように感じました。
言い換えるなら、常にマックス・スピードで相手を翻弄するというスピード・スターが、この試合では、相手を見て、必要な動きで打ち、受ける。という、とても基本に忠実なボクサーらしいファイト・スタイルに変わっていました。
全くファイト・スタイルの違う別人と対戦する感じですから。これはエストラーダ陣営も面食らったのではないでしょうか?
計量の時に見たエストラーダ選手は、階級を上げるに際し、体をバンタム級用に大きく仕上げてきました。身長、体重の数値面からみた印象だと、那須川選手と遜色ない調整がでてきた感じです。しかし、実際に並んでみると、やはり、那須川選手の方がデカい体格だな。という感じました。
試合展開では、エストラーダ選手の右ストレートが光っていましたね。ノーモーションから放たれる一撃は、何度も那須川選手にヒットしていました。しかし、前述の体格が原因なのか、かつてのような、状況を切り拓くような力強さは感じませんでした。
また、加齢によるものか、体をデカくしたせいかはわかりませんが、かつての速さと比べると、明確に遅いとも感じました。
エストラーダ選手は、那須川選手のボディ・ショットや、パンチによって、大きく体勢を崩す、あるいは、吹き飛ぶ場面も見られたので、これを「階級の壁」というのかもしれません。
序盤の展開では、那須川選手が、パンチ的確に打ち分け、効果的にボディ・ショットを当てるのが上手かったと思います。中には、強烈なパンチが突き刺さり、エストラーダ選手が大きく揺らぐ場面もありました。
また、パンチをまとめて打つタイミングも絶妙だったと思います。打ち分けが効果的になったように、コンビネーションも的確でした。さらに、ガードを上げ、エストラーダ選手のカウンターも的確にガードしていて、防御面も相当固くなっていました。
エストラーダ選手が負ったダメージは、傍から見ても明らかだったので、序盤は那須川選手が間違いなくリードしたと思っていました。
なのに、4R までの採点結果は、38-38 と引き分けを支持したジャッジが 2人もいました。これは、井上拓真戦でもそうでしたね。つまりこれは、「ボクサーならイン・ファイトもしろ」「相手の得意な距離でも撃ち合え」ってことなのでしょうか?もし、そうなら、人間がジャッジする意味は無いと思います。
中盤、採点結果を見て。同じ展開ではポイントを得られないとわかったので、天心陣営は、エストラーダ選手の近距離戦を攻略する方針に舵を変えた感じです。
従来の那須川選手であれば、相手の距離には付き合わない方針を貫いたでしょう。しかし、それでは「消極的」と見做され、ダメージを与えてもポイントを奪えないかもしれないというリスクを背負い続けることになります。
なので、これが井上拓真戦から導き出した答えなのでしょう。
両者の距離はずっと詰まって、エストラーダ選手が得意とする距離での打ち合いです。しかしここでも、那須川選手は上手に捌きました。
接近戦でも上下への打ち分けの巧みさで、効果的にボディー・ショットを当てる那須川選手。特に、エストラーダ選手が距離を詰めに来た瞬間に、ボディー・ショットを当てていたのが、これまでとは明確に違う、ボクサー的なパンチの打ち方だったので、特に印象に残りました。
エストラーダ選手も奮起し、手数を増やし、プレッシャーをかけます。
これは、従来の那須川選手であれば、大きく距離を取る局面ですから、それを追い込み、得意の近接戦に持ち込み作戦だったのかもしれません。しかし、この試合では、近距離戦もしっかり対策し、別人のようになっていた那須川選手です。ここに至るまでの中盤の攻防で、勝敗は決した感すらありました。
6R には、エストラーダ選手のステップ・インと、那須川選手のボディ・ショットのモーションとが、運悪くカチあってしまい、エストラーダ選手が不意にダメージを負ってしまうことがありました。これは、接近戦はよくあることだし、偶然なのは見ていて明らかだでしたね。
終盤は、明確に格付けが付いた感じの展開に見えました。
那須川選手は、序盤からジャブを良くあてていました。このころになると、ワン・ツーからのコンビネーションを当てるシーンも多くなり、そして、ボディ・ショットも織り交ぜた豊富な手数に、エストラーダ選手の防戦が多くなり、クリンチも多くみられるようになりました。
最後は、9R 終了後、10R 開始時にエストラーダ選手が棄権ということで、那須川選手の 9R TKO という決着でした。
那須川天心、めっちゃ強かった。
ただ、この試合のエストラーダと、井上(拓)選手が戦ったとしたら、井上(拓)選手が勝ってたと思います。
そして、那須川選手が、よりボクサーっぽくなったので、井上(拓)選手は、ワンチャン、やりやすくなった可能性があるので、このままリマッチとなったら、順当に井上(拓)選手が勝つ可能性を、強く否定する材料に欠けるかな。
ただ、那須川天心もここで完成したってワケでもないでしょうし、タイトル・マッチまで、どのように成長するか楽しみで仕方ありません。
ぼくは、ボクシング転向しても、キック・ボクシングのときと同じ「打たせずに打つ」感じのスピード・スターな那須川天心が好きなので、このスタイル変更には正直、複雑。那須川選手の真骨頂は、The Match 天心 vs 武尊 にあると思ってるから。
仮に、KO にこだわらず、「打たせずに打つ」スタイルであったら、エストラーダ選手の右ストレートを、ああも喰らわなかったと思います。
でも、そうしないと、ベルトには手が届かないということなのだろう。序盤判定の結果がそれを物語っている。それが競技のシビアさというなら仕方がない。
この文を書いていて思ったんだけど、ぼくは、那須川天心に、修羅の門の陸奥九十九を見ていたのかもしれない。
修羅の門は、古流武術の継承者 陸奥九十九が、自身の流派が最強であることを示すために、様々な格闘技に挑戦していく姿を描いた格闘漫画で、その中にボクシング編があります。
九十九の流派は、組打ち、関節技ありの空手って感じ。この作品では、あくまでボクシング・ルール内で、流派の技を奮い勝利を納めていきます。
那須川選手は、漫画の中から飛び出してきた主人公みたいなところがありますよね。なので、あくまで那須川天心として、ボクシングに臨んで欲しかった。圧倒的スピードで相手を翻弄する「アンタッチャブル・マン」それが、ぼくのイメージしたボクサー那須川天心でした。
だから、ボクサーっぽくなってしまった那須川選手を見て、少し複雑でした。
でも、大事な復帰戦に勝利し、これからも那須川天心という物語を読めることは、とても喜ばしいことです。